ミーティング

 アメリカでは生命科学系の研究室は、9月から今頃までは研究費の申請で忙しく、今はまさに申請書を完成させるためのラストスパートの時期です。正確に言うと、教授陣で、研究費の申請時期に来ている人は忙しくなります。うちのラボも例外ではなく、20ページを越える申請書類を何ヶ月もかけて練り上げ、予備データと、予測される結果、インパクトなどをクリアに記述した上で申請します。この予算があたるかどうかによって、そのラボが生き抜いていけるかどうかが決まるといっても過言ではありません。ボスは文章を書き、データはポスドクが日々予備実験をしてきれいなデータを取るのに苦心します。
 今週あったのはそのミーティング。教授が書いた申請書をポスドクや学生も読んで、意見を言います。ラボヘッドが書いたものであろうと、いいと思わなければ、意見を言うことができますし、もっとわかりやすくするためにはどうしたらいいのかを率直に意見交換します。

 こういうミーティングを重ねることによって、将来自分がグラントを書くことになったときにも活きてくるのだと思います。そういえば、日本の研究室では、研究費の申請書はほとんどが教授が一人で書いていたように思います。学生やポスドクは教授が獲得した研究費で研究しますが、研究室の方向、向こう数年で何を研究するのかについての議論には入っていないのは不思議な気がします。その分トップダウン的なラボ運営がしやすいかというと、そうでもないし。

 実際、日本で大学院生活をしていた身からすると、ボスがいいと思って書いたものに意見を言うのは勇気が要ります。逆にこちらのほうが健全だと思うし、慣れていくしかありません。自分がreviewer(査読者)だったら、読んでいってスンナリアイディアが頭に入ってくるか、どの部分が分りにくいかを文章と向き合って考えていったことを伝えるしかありません。がんばっていい意見を言おうと思ってしゃべると、結局何を伝えたいのか空回りしてしまうような気もします。
 以前、招待講演で私が働いている研究所にきてくれたF博士とは、大学を案内した関係で個人的に話をする時間もあったのですが、トークの後、"Can you be honest? Can you be direct?"(正直に、意見を言ってもらえる?そして直接的に表現してほしいんだけど)と前置きをした上で、私に"今日の講演は君から見てどうだった?分りやすかった?そうじゃないとすればどこだった?"と聞いてくれました。そう聞かれて驚きと共にこれだけの大御所になった人でも、率直な意見をこんな若手に求めるなんて、と感動したのを覚えています。実際この分野に30年以上いて、70を越える老教授からそういわれて驚きました。あまり日本で偉くなった人が、若手の人に普通に意見を求めて、耳を傾けるところは見たことがありません。こういうところは、見習わなくてはならないと強く思います。