確率の問題

原発事故当初、妊婦や小さい子供がいる家庭は一時的にでも東北/関東圏から避難したほうがいいんじゃないだろうかと多くの人が思っていたのでしょうが、声を大にして避難を勧めたひとは少なかったよように思います。実際、避難を煽ってしまえばパニックになるだろうし、西側の地方だって受け入れ容量はそれほど多いわけではないでしょうから。

こういう、いざというときの避難について、実は日本では何も戦略が無いことも分った出来事でした。戦時中でもない限り、疎開や非難なんてことは想定しようがないし、平時の場合には政府も強制力をもつような決議はできませんから、線引きが難しいでしょう。避難するかどうかの是非は結局後になってみないと分らないもので、避難せずにずっと福島で暮らしていると、数ヵ月後、数年後には甲状腺異常の発生確率がぐんと上がる可能性だって無くはありません。今日のニュースによれば、130人中の10人がすでに甲状腺ホルモンの値が異常を示しています。これが原発事故との因果関係があるかどうかは不明のようですが、因果関係があるとしたら、7.7%の確率ですね、かなり高い。

甲状腺機能>福島の子供10人に変化 NPO検診
毎日新聞 10月4日(火)19時41分配信
 長野県松本市NPO法人「日本チェルノブイリ連帯基金」(鎌田実理事長)と信州大医学部付属病院が、東京電力福島第1原発事故後に県内へ避難した福島県の子どもを検診し、130人中10人で、甲状腺ホルモンが基準値を下回るなど甲状腺機能に変化があったことが4日分かった。健康状態に問題はなく原発事故との関連は不明といい、NPOは「参考データがなく、長期の経過観察が必要だ」と話している。
 10人の内訳は▽甲状腺ホルモンが基準値以下1人▽甲状腺刺激ホルモンが基準値以上7人▽甲状腺組織が壊れたことなどを示すたんぱく質「サイログロブリン」の血中濃度が基準値以上2人−−で、甲状腺異常や甲状腺機能低下症はなかった。
 長野県茅野市に避難した生後6カ月〜16歳の130人(男75人、女55人)を対象に7月28日〜8月25日、問診や尿・血液検査をした。
 甲状腺は、身体の発育に関連する器官。甲状腺ホルモン分泌にヨウ素が使われるため、子どもは大人より放射性ヨウ素を蓄積しやすい。【大島英吾】

避難を大々的にさせることによる物理的、金銭的なリスクを政府や東電が取りたくないがためにアンゼンアンゼンと呪文を唱えてきたのですが、結局、ある一定の確率で健康に害を及ぼすことになります。つまるところ、自分の体に影響があるかどうかは、賭けみたいなもので、ある確率で健康に害を及ぼす可能性はみんな持っているし、政府や東電もそれをわかっているけどあえて言及しなかった。言及したらさらに説明や責任が生じるからなのは言うまでもありません。

政府が広範囲にわたって原発周辺エリアの住民を避難をさせるかどうかの決断も、確率的にどっちが政府自身の手間にならないかに強く起因しているように思います。避難を大々的にさせればコストと手間がかかるけれど、避難をする必要が無いことにしてしまえばそのコストはかからない。その代わりに後でもしかしたら健康被害が生じるかもしれないけれど、多分確率的にはそれほど高くないかもしれないから、低コストのほうを選ぶ選択をした、そんなところのような気がします。


(追記)
日本小児内分泌学会http://jspe.umin.jp/pdf/statement20111012.pdf)によれば、この甲状腺検査で見られた値は一般的な小児の検査値のときにもみられる範囲の値で、放射線被曝と結びつけて考えるほどのものではないそうです。基準より高い値=異常値ではないってことなんでしょうね。

長野県において福島県から避難している子どもの甲状腺検査に変化がみられた
とする報道に関しての学会声明
日本小児内分泌学会 2011 年 10 月 11 日

検討の結果、今回の検診でえられた「検査値の基準範囲からの逸脱」はいず
れもわずかな程度であり、一般的な小児の検査値でもときにみられる範囲のも
のと判断しました。なお、これらの検査結果を放射線被ばくと結びつけて考慮
すべき積極的な理由はないものと考えます。