基準を決めたのは誰だ

年20ミリシーベルト未満は通常通り=福島の13校、屋外活動制限−学校の安全基準
 政府の原子力災害対策本部は19日、福島県内の学校の安全基準について、大気中の放射線量が年間20ミリシーベルトを下回るとみられる場合は、通常通りの校舎や校庭の利用を認める暫定方針を決定したと発表した。放射線量の測定を続け、夏休みが終わる8月下旬をめどに見直しを行う。
 原子力安全委員会の一部委員は「子どもは成人の半分以下とすべきだ」と指摘していたが、文部科学省は「国際放射線防護委員会(ICRP)は、大人も子どもも原発事故後には1〜20ミリシーベルトの被ばくを認めている」と説明。計画的避難区域の指定基準と同じ年20ミリシーベルトを下回れば問題ないと判断した。計画的避難区域と緊急時避難準備区域に指定される地域の学校は使用しない。その他の学校のうち、通常通り屋外活動を行うと年20ミリシーベルト以上となる恐れがあるのは福島、郡山、伊達3市の13校・園(児童・生徒・園児計3560人)。文部科学省厚生労働省福島県教育委員会などに対し、これらの学校については校庭での活動を1日約1時間とし、活動後には手や顔を洗うことや、砂ぼこりが多いときは窓を閉めることなどを求める通知を出した。
 文科省によると、現時点の放射線量が変わらず、毎日8時間は屋外に、残り16時間は木造家屋内にいたと仮定すると、校庭での放射線量が1時間当たり3.8マイクロシーベルトの場合、1年後の積算線量が20ミリシーベルトとなる。この試算から同3.8マイクロシーベルト未満の学校では、通常通りの活動を認めることにした。
 一般人の線量限度は本来年1ミリシーベルトだが、ICRP原発事故などの緊急時には年20〜100ミリシーベルト、事故収束後は1〜20ミリシーベルトを認めている。記者会見で鈴木寛文科副大臣は「100ミリシーベルト未満では、がんなどのリスク増加は認められない」と述べた。(2011/04/20-00:43)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201104/2011041900812

 日本政府は、放射線量の安全基準を上げていっています。作業員が放射能汚染された環境で作業できる被曝レベルも従来の基準である外部被曝量100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに変更しました。放射能の影響は妊婦や幼児期、子供に強く出ることは専門家でなくとも知っていることですが、政府は子供の野外活動ができる許容被曝線量も年間1-20ミリシーベルトと、高く設定しました。

 年間20ミリシーベルトとは、どんな被曝量かというと、放射線管理区域に設定される被曝量よりも高いそうでうs。放射線管理区域の定義の一つに外部放射線による実効線量が、3月間につき1.3mSVを超えるおそれのある区域というのがあって、3ヶ月に1.3mSVだとすると年間に直すと5.2mSVになります。年間5.2mSVの放射線が観測される区域は、放射線管理区域に指定されるのに、小中学校の生徒が活動していい放射線量レベルはそれの約4倍に当たる20mSVに設定されるという、不思議な現象が生じるわけです。20ミリシーベルト原発労働者が白血病になった際、労災認定されるレベルなんだそうで、かなり高い数値であることも分ります。

 何で今原発事故が起こっている状況でわざわざ基準を変えたのでしょう?そうしないと、作業員は撤去作業も何もできないし、子供たちの学校活動が制限されたり、そのエリアから退避させなくてはならないから。放射線量が高いエリアからの退避基準を厳しくすれば、今よりも多くの人を非難させなくてはならなくなって、その費用や退避に伴うトラブルや責任問題が発生する。それを無かったことにするためには、基準を上げればいいという構図。子供たちの健康や、被曝による影響については科学的データが明確にでていない(でていても取り上げない)ので、そこは今の時点ではスルーでいい、というのが彼らの論法のような気がします。

 これで、将来的に健康に影響がでようが、今この瞬間に基準を上げたこととの因果関係は証明できるはずも無いので、基準をあげた人の責任は問われないだろう、とでも思っているのかもしれません。

 もしここに書いたことが著しく的外れなことならばいいのですが、放射線量の基準を上げた根拠が他に見当たりません。納得できないのは基準を設定した人たちの責任が明確でないこと。誰が、どういう根拠で、決めて、もしもそれが間違った判断だとしたらどういう影響がでるのかまで明示してから決定すべきなのに、一方的に基準を変えられて、なおかつ誰が決めたのかはうやむや。基準の改定に関わった人たちは、法律的に責任を問われてもいいと本気で思います。

http://www.youtube.com/watch?v=jnOD55uLA7c&feature=player_embedded
http://www.youtube.com/watch?v=DUhlamqSQXg&feature=player_embedded

 この動画は、恐らく社会党系の市民団体が、原子力安全委員会の事務担当者と、文部科学省の役人を4人ほど呼んで、公開質問会を設けた様子のビデオです。担当者に質問をする、というよりも殆ど弾劾裁判と化していて、文部科学省の担当者が答えられないのを分った上で質問をし、彼らをつるし上げるための会になっています。質問も、質問者側が誘導してそれに役人が言葉尻を取られまいと防戦しているだけで、なかなか話し合いにはなっていないし、なりようがない気がします。見ていて痛々しいものもありますが、この動画を見ればどの程度文部科学省が基準設定に関与しているのか、というか基準を決めるのに如何に関与していないのかが分ります。

決定までの一連の流れは

  • 福島県から政府へ"福島県内の小中学校における校舎校庭等の利用判断ににおける暫定的考え方"を示すよう政府に要請がある。、
    • 公式の会議は開催せず、議事録もあるかどうかはわからない。だけど、以前に方針は決めてあったからOKを出す。
    • 1-20ミリシーベルトという基準は5人の安全委員会の総意の下に決定
    • 根拠は不明、だけど「国際放射線防護委員会(ICRP)は、大人も子どもも原発事故後には1〜20ミリシーベルトの被ばくを認めている」ので、それを流用。
    • 実際にどれくらい健康に影響が今後あるかどうかを専門家で話し合ったり、検証したりしたかどうかは、不明。
    • 内部被曝については、安全委員会でシミュレーションをした上で、殆ど考慮しなくてもいいレベルだったから、問題ないと判断。でも、どんなシミュレーションをしたのかは知らない。
  • 文部科学省の立場: 基準については原子力安全委員会に判断をマル投げ。なんでもいいから安全委員会が承認した基準にGOサインをだしたから、中身については責任はもてない。あくまで事務判断。
  • 原子力安全委員会の立場: ICRPの基準をそのまま使っているだけで、とくに検証してない(たぶん)。子供と大人の区別はしてない、でもこの基準自体はICRPが決めたものだから、それがいいのか悪いのかの判断は他人任せ。文部科学省に助言はするけど決定権は文部科学省にしかないので、自分達には責任は無いはず。

 政府の役人達は、一人一人が全て把握しているわけではないので、それと同時に全体のプロセスも誰も把握していないこともわかります。原子力安全委員会は20ミリシーベルトでいいかどうかの評価はするけど、決定はしない。文部科学省原子力安全委員会に評価はマル投げしたので、なんで20ミリシーベルトが基準になるのかはしらない。結局誰に聞いてもなんでそうなって、それがどういう影響を及ぼすのか分らないってことがこの動画からわかります。

 いくら役人をつるし上げてもたぶん、これ以上のことはでてこないし(つるし上げてもいいけど)、あまり意味がない。一番問題なのは、誰も大局的に問題に取り組んでないってこと。部分的役割しか負っていない役人をつっついてもしょうがないけれど、それを全部把握している人がいないってことが一番の問題です。被害蒙る立場にしてみれば誰かを犯人にして怒りをぶつける対象を探したいのも分るけれど、たぶん押しても押しても当事者は出てこないでしょう。当事者を作らないシステム自身が問題なんだということが分ります。

 役人や安全委員会も、基準値をこの値に決めたことがこんなに刺激することになるとは思っていなかったような様子が伺えます。思った以上の反応がきたので、あわててこれからどうするか考えるような幹事なのかもしれません。文部科学省の人たちにしても、恐らく他の省庁の人でも、たぶんこういうことをさばけるような人数も知識も無いのかもしれません。だから、今までの先例を踏襲する、誰かが言った言葉をそのまま使うことが慣例になっていて、自分自身で考えたり判断したりすることは無い、のかもしれません。


 結局だれも責任は取らないし、自分の責任でどうにかしなくちゃいけないんだなーということでしょうね。政府が決めたからって、その基準を現場が使わなければいいのでしょうけど。

 ホント、責任者出て来い!といいたいところです。責任者がいるのかどうか。。。

「子供の許容被ばく線量高すぎる」と疑問(04/27 11:51)

ノーベル賞も受賞した国際的な医師の団体がワシントンで会見し、文部科学省が子供の1年間の許容被ばく線量の目安を「20ミリシーベルト」に設定したことに疑問を呈しました。

 アイラ・ヘルファンド医学博士:「衝撃的だったのは、日本政府が福島の子供たちの許容被ばく線量の基準を高く設定したことだ」
 ヘルファンド博士は、「子供の場合、がんになるリスクが成人よりも2倍から3倍高くなる」と指摘して、許容される被ばく線量の基準を引き下げるよう求めました。アメリカでは、原子力関連施設で働く人の1年間の許容量の平均的な上限が年間20ミリシーベルトとされています。

http://news.tv-asahi.co.jp/news/web/html/210427018.html

正気を疑う文科省の学校線量基準
2011年4月20日

文部科学省原子力災害対策本部、原子力安全委員会は、4月19日に「福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」を発表した。その内容は「校庭・園庭で3.8μSv/時間未満の空間線量率が測定された学校等については、校舎・校庭等を平常どおり利用をして差し支えない」というものだ。

放射線管理区域の6倍で「平常どおり」

この3.8μSv/時という基準線量を見て目を疑った。放射線管理区域に設定しなければならない、信じ難く高い線量だったからだ。放射線障害防止のための放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律等は文科省が所管している。そして文科省自身が、「外部放射線に係る線量については、実効線量が3月あたり1.3mSv」を超えるおそれのある場所については放射線管理区域を設定するよう定めているのだ。

3月あたり1.3mSvというのは、0.6μSv/時である。今回文科省は、その6倍以上の3.8μSv/時という線量があっても「平常どおり利用をして差し支えない」と発表してしまった。これは明らかにこれまでの規制からの逸脱であり違法な内容である。
これが原子力発電所内や防災機関などなら、非常時なのでやむを得ないという考え方も出来るかもしれない。しかしどういう説明を付けても、放射能の影響を受けやすい子供達が毎日の生活を送る場所にふさわしいと言うことは出来ないはずだ。
http://wiredvision.jp/blog/gohara2/201104/201104201515.html