ニセ科学と脳科学

 昨今、テレビ番組や報道で脳科学を題材にした番組があるようですね。ほとんど見たことはありませんが、Scienceの現場で毎日実験している身からすれば、こういう番組で科学的根拠がないことが科学的かのように扱われて、どんどんあらぬ方向に行ってしまっているような気がします。
 そういえば、そういうテレビ番組に出演している某タレント脳科学者が3年間の確定申告せずにいたために税務署から指摘されていてニュースになっていましたね。テレビ番組の出演料に関しての確定申告をしていなかったようで、3年間で4億円の所得申告漏れがあったそうです。研究しないのに研究者としてタレント業をしていると、スゲー儲かるんだとつくづく思います。

 この意見、「エチカの鏡」という番組は見たことが無いけれど、この人が書いていることには同意できます。
「俺の邪悪なメモ」跡地


英才教育を煽るクソみたいなニセ科学番組

テメーのことだよ! フジテレビ『エチカの鏡』!
このエントリでは、TV番組『エチカの鏡』と、これによく出てくる"脳科学おばあちゃん"こと久保田カヨ子さんへのかなり厳しめの批判を書く。たぶんかなり長くなるので、先に言いたい事をまとめておく。

エチカの鏡』というテレビ番組で、"脳科学おばあちゃん"こと久保田カヨ子さんが脳科学に基づいた英才教育を提唱している。

しかし久保田さんは、科学的な言葉を強引な推論で自分の経験則に当てはめているだけであり、彼女の提唱する英才教育が脳科学に基づいたものなどとはいえない。これを科学だと主張するなら、それはニセ科学である。
なお、久保田さんは子育ての一般論として妥当なこともいっている。しかしそれは脳科学とは関係ない。
影響力のあるメディアが科学じゃないものを科学といって宣伝するのは間違っている。それに本職の脳科学者が荷担するような形で関わるのはもっと間違っている。茂木健一郎&久保田競、あんたらのことだよ。
このようなやり方で脳科学と英才教育を結びつければ、優生学まであと一歩だ。また、久保田さんは優生学と親和性の高い発言もしている。
この番組は、子育ての不安につけ込み英才教育を煽ることで視聴率を稼いでる。場合によっては久保田さんの主張さえも番組の趣旨に合わせてねじ曲げてすらいる。本当にクソだ。
英才教育なんかしなくても普通に子育てすれば、子どもは脳も含めて普通に育つ。そして多かれ少なかれ親の思い通りにはならない。ぼくはまだ子育ての真っ最中で経験としては語れないが、世界中の普通の人たちの存在がその証明だ。
クソみたいなテレビ番組や学者のいうことなんか気にせずに、気楽にやろう。

 科学がちゃんと科学として世の中に認知されるためには、こういう番組じゃなくて、本物の、そして面白い研究を元に番組を作ってほしいもんです。

 余談ですが、科学者の感覚として、"脳科学者"というカテゴリは恐らく存在しません。脳を研究している場合、脳科学者ではなく、神経科学者と呼びます。もしくは神経生理学者といってもいいですが一般的には神経科学者をよく使います。学会としては、日本神経科学学会や日本生理学界はありますが、脳科学学会という学会は存在しませんし、私は脳科学者ですと自称する人はちょっと怪しいと思ったほうがいいと思います。

 神経科学をちょっとかじっている身としては、子育ては脳が発達していく様子が、行動として目の前で見られてとても楽しいですが、こうあるべきとか、いつまでに教育しないと…という風にはとても思いません。感覚システムには発達の臨界期という時期があって、その時期までに特殊な環境で環境に育てると、神経ネットワークの発達もその環境に影響されます。だからといって、赤ん坊の頃に教育を始めなくてはならないわけではありません。

[追記]
 youtubeでこの番組を一部見てみました。この久保田さんが番組中で子育てについて言っていることは、特におかしなことではないと思います。実際、同じような子育て方法は保育の分野では当たり前のように教えられていることだそうです。それを”脳”科学的根拠に基づいているかのような紹介の仕方をするところが問題です。
 どんなことでもそうですが、事実と、推測が混ざった説明を聞くと、何前知識のない人にはどこまでが事実で、どこからが喋っている人自身の考えなのかの区別がつきにくいですから。事実と事実でないことを織り交ぜて喋ることで、真実味があるように聞こえて、逆に人は簡単に騙されるということも言えるかもしれません。

[追記2]
 最近出たこんな本もあります。阪大の藤田一郎教授が、現場研究者の立場からニセ科学を検証していきます。