ニセ科学はまだまだ続く?

 ここ10年くらいの間、脳の活性化、脳トレ、脳のトレーニング、など色んなニセ科学疑似科学が出ていますが、学会でもこれに対して警鐘を鳴らしているようです。(非侵襲的研究の目的と科学的・社会的意義 神経科学学会

脳研究の「神話」独り歩きに警鐘 日本神経科学学会 (2010年1月8日20時15分)
 脳科学研究の成果が、脳ブームに伴って拡大解釈されて広がっていることなどを懸念し、日本神経科学学会は8日、研究指針の改定を発表した。脳活動の測定方法の安全性や測定でわかることの限界を知り、検証を受けた論文などを発信するように求めた。
 指針では、科学的根拠のない「神経神話」と呼ばれる疑似脳科学が独り歩きしていることを憂慮。不正確な情報や大げさな解釈で脳科学への信頼が失われることがないように、科学的な根拠を明確にして研究成果を公表するよう求めた。
 経済協力開発機構OECD)の報告によると、神経神話には「3歳までが学習を最も受け入れやすい」「右脳左脳人間」「脳は全体の1割しか使っていない」などがある。
 脳を傷つけずに調べる手法は1990年代に実用化され、脳内の血流の変化などを画像化する測定機器が普及した。比較的簡単に操作でき、人間を対象とした実験の経験が少ない工学系や文系の研究者にも広まった。同学会によると、被験者への実験の安全性の説明をしていない例や、測定機器の特性を理解しないまま実験する例もある。同学会は、ホームページで公表するなどで会員以外にも順守を呼びかける。(佐藤久恵)

 
パッと読んだだけでは、ふーんそうなんだとしか思わないかもしれませんが、この記事、後半では偏った書き方をしています。特にこのくだり

脳を傷つけずに調べる手法は1990年代に実用化され、脳内の血流の変化などを画像化する測定機器が普及した。比較的簡単に操作でき、人間を対象とした実験の経験が少ない工学系や文系の研究者にも広まった。同学会によると、被験者への実験の安全性の説明をしていない例や、測定機器の特性を理解しないまま実験する例もある。

この記事のおかしな点については、このブログでも指摘されていますが、

そもそも、現在日本では神経科学のみに特化した研究者育成機関は皆無に等しく、これまでに日本で「神経科学」の名前を冠した学位が授与された例はありません。先日のエントリ(本物の「神経科学者」「脳の専門家」であるかどうかを見分ける方法)でも少し触れましたが、例えば医学系の研究者だからといって人間を対象とした実験の経験が豊富だとは限りません。それを言うなら、日本では文学部に配置されやすい心理学の研究者の方が、mol/cellだけやってきた医学系の研究者よりもよほどヒト実験には熟達していることでしょう。そういう点からいうとこの記事には明らかに業界の実態を無視した箇所があり(というか工学系や文系の研究者に対するネガティブイメージを与えようとするかのような意図すら感じられる)、どうにも胡散臭さを感じさせます。
(「焼け石に水、そして身から出た錆」大「脳」洋航海記より引用

 新聞記者は、聞いた話をうまく文章にすることが仕事ですが、ちょっとした言葉の使い方で間違った方向に行ってしまいます。上記に引用されているように、神経科学は総合領域ですから、昔から、文系もいれば理学系、工学系、医学系もいるという現実を知らずに記事が書かれていたんでしょう。脳科学、というと医学部が研究するという印象があるかもしれませんが、実際は、動物の行動と神経活動については医学部だけでなく、心理学系でも昔から研究されています。工学、理学、文学系の分野で脳について研究している人たちはむしろその結論については慎重で、安直なことはなかなか言わないような印象があります。かつて医学系の研究室での研究歴がある人も、疑似科学的な本を出したり、マスコミに出たりもしています。

 そんな事を考えていたら、またニセ科学記事がありました。神経科学の専門家に話を聞いて、海馬(長期記憶を司るといわれている脳領域)についての話を聞いてきて記事を書いているようですが、うまーく話をつなげて"ポジティブ脳"(造語)を作るための記事になっています。7つの事を実行すると海馬の回転数が上がってポジティブ脳が作り出されるんだそうです。

 得てして専門家から話を聞くときには、話の一部だけをうまく抜粋されて、それを記事を書く側の方向性に合わせて引用されるケースが多いようです。取材で研究者のところに話が廻ってきた場合、こういう目にあわないように注意する必要があります。それでみんなはなしを断っていって、最後に引き受けた人がいい加減な話をしてよりひどいことになるケースもあるのです。
 科学者側から、発信していかないとこういう流れは変わらないでしょう。

 ニセ科学はまだまだ続く。