結合双生児の分離手術の記事で思う日本の新聞記事

 スーダンの頭部が結合した双子の分離手術の記事を読んでいて思ったのは、日本の新聞記事ってのは本当に中身をちゃんと書いていないってことでした。具体的な内容は殆ど触れず、簡単にしか何があったかを記述しません。ひょっとして紙媒体の紙面には書いてあるのでしょうかね?どうやって手術して、どういう経過をたどったのかとか、技術的なこととかそういうことはぜーんぶ端折って、ただ分離に成功してよかったね、という程度しか書いていないのは、ネットの記事だからなんですか?

結合頭部の切り離しに成功=スーダンの双子女児―英
2011年9月19日9時6分

 【ロンドン時事】2〜3歳まで生き延びる確率が1000万分の1という頭部が結合した生後11カ月の双子の女児がこのほど、英ロンドンの小児専門病院で頭の切り離し手術を受け、術後の経過も良好なことから退院できる見通しとなった。女児を支援する慈善団体が18日、明らかにした。
 この団体は子供の顔の奇形を治す支援を行う英国の「フェーシング・ザ・ワールド」(本部ロンドン)。双子はスーダンの首都ハルツームで昨年9月22日に生まれたリタルちゃんとリタグちゃんで、スーダン人の両親からこの団体に支援要請があった。
 女児2人は4月に渡英。この時点で既にリタグちゃんの心臓は弱り始めていた。手術は5月に2回、7月に1回、8月に1回の計4回実施された。最後となった8月15日の手術から数日後に2人は一般病棟に移され、遊び始めた。
http://www.asahi.com/international/jiji/JJT201109190009.html

 この記事を見て率直に疑問を持つことは、どうやって頭部を分離するのか?ってことです。具体的には、

  1. 脳組織、血管:頭蓋骨がくっついているのは分るけれど、大脳や血管はどうなっているの?もしも血管が分離していなければ、動静脈をを切り離したりする過程が必要になりますし、万が一出血が止まらない場合はあっという間に状態が悪くなってしまい、それこそ大変な手術になるでしょう。
  2. 硬膜:硬膜とは、大脳を包む膜の一つで、脳脊髄液が中にあって脳はその中に浮いている状態になっています。この硬膜が分離していなかったら(こういうことがありえるのかどうか知りませんが)切り離した後大脳をそれぞれ包む為の膜はどうするのか?
  3. 頭蓋骨:分離した後の頭蓋骨自体は多分頭頂部のドーム状の部分は二人ともないので、人工骨などで代替しなくてはいけないはずですがそれはどうしたんだろう?
  4. 頭皮:皮膚はかなり広い範囲で移植手術か何かをしなくてはいけないはずですが、それはどうしたんだろう?

こういった疑問が思い浮かびます。。でもそういうことは一切触れていません。ただ手術して成功してよかったねー、程度のレベルの記事にしかなっていません。これじゃあその辺で井戸端会議しているのと殆ど変わらないんですよね、大手新聞の記事なのに。専門誌ほどしっかり書けとは言わないけれど、もうちょっと満足させてくれる記事を(特に科学記事に関しては)書いてくれないと読む気がしません。多分そういう記事が書ける記者がいないのか、適当に扱っても問題ないとみなしているかのどちらかなんでしょうね。

Sudanese twins born with tops of their heads joined together separated in risky series of operations
THE ASSOCIATED PRESS
Sunday, September 18th 2011, 8:49 PM
Read more: http://www.nydailynews.com/news/world/2011/09/18/2011-09-18_sudanese_twins_born_with_tops_of_their_heads_joined_together_separated_in_risky_.html#ixzz1YWIGA7kv

結局他の記事をいくつか見ると、いくつかの点については記述してあります。例えば、血管は幸い今回の例では結合していなかったので、分離が可能だったこと。皮膚に関しては、以前の手術のときに生理食塩水を注入して皮膚を事前に伸ばしておいたようです。写真もあります。これで手術が終わったあとは二人とも自分の皮膚で頭をカバーできるわけです。頭蓋骨に関しては、やはり人工骨で代用するようです。

↑こんな感じで、皮下に生理食塩水を注入して皮膚を延ばしておく期間が数ヶ月あり、その後に頭部を切開して分離するようです。

CONJOINED SUDANESE TWINS DOING WELL AFTER SEPARATION
Joined at the head, the twins were born with a rare condition which only one in 10 millions sufferers survived.
http://news.discovery.com/human/conjoined-twins-separated-110919.html

最終的に見つけたのは、2009年の別なケースに関する記事。これで、おおよそ、どういう風に手術がされたのかが分りました。

Bangladesh twins separated in marathon Australia surgery
http://www.france24.com/en/node/4927658


 海外のこういう記事のちゃんとした内容を知ろうと思ったら、日本の新聞は何の役にも立たないことが分ります。それでなおかつ、日本の新聞社の多くのネット上での記事は、一定期間経つと、ページごと削除していきますから、あとで読もうと思っても読むことができません。こういう感じだと、そのうち旧態依然とした考え方を持っている日本の新聞は淘汰されていくでしょう。