しゃべれないことの苦痛

 外国に住むようになると、きっとかなりの確率で言語の壁を感じるようになるはずです。10年近くガッコウで習ったはずの英語ですら、初めて英語圏に住み始めたときはしゃべれなくて自己嫌悪に陥ります。伝わらないもどかしさ、聞き取れない苦しさ、しゃべっていることがはしから誤解されて受け取られるときの情けなさなどは、実際に現地で生活してみないと実感できません。友達もいない、地元のこともわからない、文化の違いなどが輪をかけるようにしてストレスになります。
 
 1年たち、2年経ち、徐々に生活に慣れていくと、友達も増えて細かいニュアンスもうまく伝えられるようになります。その頃には少しだけ開放的な気分で過ごすようになれるでしょう。

 しゃべれない苦痛を味わっている人に、周りがどう接したか、どういうふうにその人を扱ったかは、その後の生活に大きく影響するように思います。しゃべりたいのにうまく言葉が出てこなかった時期に、馬鹿にされたり、冷たくされた経験は、結構後々まで残るものです。悔しさをバネにして成長はできますが、あしらわれた経験は、記憶として残ります。

 こういう関係は、日本にいても有得ます。日本人は外国人に対してどう接しているか。弱聴の人と会話をするときにどういう態度で話しているか。言葉がまだうまくしゃべれない幼児とどう向き合うか、どれも同じような関係のように思います。一度、自分がそういう立場になれば、分るかもしれません。