意見の内容よりも、誰が言ったのか

大学院生に実質的な給与を 基礎科学力委が提言

2009年8月6日7時46分, 朝日新聞

 昨年、日本から4人のノーベル賞受賞者が出たことをきっかけにつくられた文部科学省の「基礎科学力強化委員会」(座長=野依良治理化学研究所理事長)が4日、「日本の基礎科学は現在、十分な世界水準にあるとはいえず、大学院教育などの抜本的改革が必要」とし、大学院生には実質的な給与を出して支援すべきだとする提言をまとめた。

 率直に言って、こういう話が出て来るのが遅過ぎだと感じます。既に多くの大学院生が親に学費を援助してもらったり、日本育英会という教育ローンから、20年近くかけないと返済できないような巨額のローンを借りて学位を取っています。それに対してアメリカでは公立大も私立大も、大学院生は学費サポート付きで、さらに生活できる程度の給料が出ていることはずーっと前からわかっていたことで、日本の大学院制度もそうなればと、多くの人が思っていたにもかかわらず今までそういう話はなかなか出てきませんでした。4人のノーベル賞受賞者が出て、ようやくこの提言がされるっていうのは、いかに大学院が日本では軽視されているのかがわかります。
 世の中の学術関係者の多く、特に留学経験がある教授や大学の運営に関わる人、文部科学省の役人も多くが周知のことなはずですが、今まで誰も変革することができなかったわけです。いや、提言することすら誰もしなかったか、できなかったか、したとしても黙殺されたり、少なくとも大手新聞には無視されていたわけです。”ノーベル賞受賞者”という印籠があって、初めて聞く耳を持つわけですから、その分野でノーベル賞級の評価を認められた人が現れない限り意見を言っても認められないことになり、これでは何にも変革できないと感じざるを得ません。。
 日本という国では、いい意見は、誰が提言してもいいという認識ではなく、いい意見でも誰もが認めるエラい人たちから言われないといい意見として扱われないのだということを、この記事は如実に物語っています。意見の内容そのものに共感するのではなく、どれだけエラい人、有名な人が発信したのか、それだけに注意を払う文化なんだという自覚がないのが問題なのかも知れません。

 提言では日本の現状について「現実逃避ばかりで危機意識が希薄。欧米のみならず急速に発展するアジア諸国の状況を直視すべきだ」と分析。アジアでは博士課程を中心に大学院生の拡充に乗り出している点に触れ、日本でも大学院教育に財政支援を増やし、同時に「大学側の意識改革を進めるべきだ」とした。

 修士や博士課程の学生を、「教育アシスタント」や「研究アシスタント」に位置付けて、「実質的給与型の経済的支援の拡充を図るべきだ」と言及。大学側に対して、こうした人材の雇用を義務づける必要性を訴えた。国内外に開かれた大学院にするために、幅広くいろいろな大学・分野から学生が集まるよう、同一校、同一分野の出身者を最大で3割程度に抑え、外国人学生を2割以上にする、などの目標を掲げた。(行方史郎)
http://www.asahi.com/national/update/0805/TKY200908040424.html