スクールバスで怪我をする

 YuがKindergardenに通い始めて3週間がたちます。毎日朝6時に起きて、朝ごはんを食べ、歯を磨いたら7時10分にスクールバスが巡回してきます。バスの時間にあわせて家の前に他の子供たちと一緒に立って待ちます。スクールバスに乗り込むと約30分かけて幼稚園まで行きます。ちなみに幼稚園といっても、小学校と同じ敷地で、ただ学年がKindergardenというだけです。

 このスクールバス、毎朝決まった運転手が子供たちを乗せていってくれます。時間通りにきっちり着てくれるのはいいのですが、Yuと他の子供たちがバスに乗り込んでから、席に着く前にバスを出発させてしまいます。外から見ていると子供たちがまだ座席を探しているのに(といってもYuが乗る場所は始発なのでガラガラなんだが)車が動いてしまうものですから、5歳児たちが転びそうになっている様子が外からでも分かります。
 
 Yuは毎日朝7時10分のバスで学校へ行き、午前11時にはバスで帰宅します。毎日元気にいって元気に帰ってきてくれるので親としてはほっとしています。それが昨日、Yuが学校から帰宅して外遊びをした後で、思いついたように、”Mom, I forgot to tell you"と教えてくれました。何かと思ってみてみると、ズボンのすそをあげて、5センチほどの切り傷を見せてくれました。どうやらバスで転んで切ったんだそうです。ぱっくりと割れるほどではありませんでしたが、明らかに鋭利なものに足を引っ掛けてついた傷です。詳しく話を聞くと、バスに乗り込んで席に着く前に出発したバスが、カーブを曲がるときに転んでしまい、そのときに怪我をしたんだそうです。血はそのときは出ていなくて、それほど痛くもなかったんだけど、足の傷を見ると明らかにうっすら切れていて、血が出てかさぶたになっています。おそらくじわじわと血が後から出てきたんでしょう。後で気づいたのですが、その日朝はいていたジーパンも、L字型にぱっくりと切れていました。

 あのバスの運転手の危なっかしい運転を毎日見ていても、まさか自分の子供が怪我をする羽目になるとは思っていなかったのは、親に危機感がないとしか言いようがありません。すぐにバスを運営している部門の直通電話に電話をして事情を説明し、怪我をしたからどういうことなのか説明するように求めました。その日は、バスの中に設置されているビデオの録画テープで事実化訓をした上で、翌日(今日)折り返し電話をするから待って欲しいとのことで一旦切りました。

 
翌日の今日、朝Yuを見送るときにバスの運転手に、昨日スクールバスのオフィスに電話を入れたんだけどメッセージを聞いたかどうか確認したのですが、答えは”No"。仕方がないので子供がバスの中で転んで怪我をしたんだと言うと、信じられないというような反応でした、アホかこのおっさんはと思いながら、”あなたはほとんど毎回のように子供たちが席に着く前にバスを走らせるけど、ちゃんとシートベルトをするのを確認してから出発してくれ”というと、”いつもそうしているけど、今後よく確認するよ”と自信満々に言い放ちました。再びアホかこのおっさんはと思いながらにこやかに送り出しました。

その日、オフィスからは待てど暮らせど電話は来ず、指定の時間を過ぎても電話が鳴らないので、TmとTkで相談してこちらから再び電話をかけることに。昨日電話を折り返すと約束してくれた担当の人は、すでに帰宅していました(怒)。昨日の約束をあっさり無視されてしまいました。なんてこった、と思いますが、ここはアメリカと言うことを忘れてはいけません。よくあることです。電話をしたTmがYuが怪我をしたときの様子を撮ったビデオを検証した結果を聞きました。電話に出たのは部門責任者のマネージャー。他の人がビデオを検証して書いた報告書を読み上げる形で説明してくれました。

曰く、

”バスの運転手は常に子供が座ってから出発している。
バスが走行中に男の子が通路に転げ落ちた。
ドライバーは男の子が通路に転げ落ちたことには気づいていない。
男の子がシートベルトをしていなかったためと考えられる。
今後は生徒が乗車した際、シートベルトをするようにドライバーに注意させる。”

ということでした、子供たちはバスに乗り込むとまず席に座り、必ずシートベルトをするように義務付けられているので、走行中に転げ落ちると言うことはありえません。それがありえたと言うことは、子ども自身がシートベルトをつけていない=子供が悪いと言うことになります。ドライバーはシートベルトをつけるように注意する程度しか出来ることはないともいえます。

このマネージャーに上がってきた報告書を鵜呑みにすれば、ドライバーはあまり落ち度はなく、Yuが勝手に転んで怪我をしたことになりますし、毎朝TkとTmが見ていうような、子供が座る前にバスが出発する、という運転手の落ち度も認められていません。

Yuの説明では、自分が席に着く前にバスが走り始めたから転んだと言っていますから、マネージャーの説明が正しいとするとYuの話にどこかうそが入っていることになります。どちらにしても嬉しいことではありません。

その後、しばらく考えたTmが、Yuにもう一度聞いてみました。5歳児に事実関係を正しくしゃべってもらうのは結構至難の業です。記憶もあいまいですし、時に話を作ったりすることもある年齢です。しかし、粘り強く、Yuにたずねます。それしか私たちが情報を引き出せる元はありませんから。Yuの話は最終的に、始めに話してくれたことと同じで、自分が席に着く前に、バスが出発して転んで怪我をした、でした。

それを踏まえてTmが再びバス運営部門のマネージャーに電話をしてみました。具体的にビデオの中の男の子が転んだ場所を教えてくれるように頼むためです。もし男の子が転んだ場所が、出発地点から大分走行した後であれば、マネージャーが説明したことは正しいですが、もしほぼ出発地点と変わらない場所で転んだのであれば事情は変わってきます。その場合、報告書にあった転んだ場所が”走行中”というのは嘘で、Yuの証言通り、子供が席に着く前にバスが動き出した可能性を支持することになります。

これは、Yuのためにも、もう一度確認しないと納得できません。

Tmが夕方電話をすると再びマネージャーが電話に出て、話を聞いてくれたそうです。マネージャー曰く、”自分自身はビデオを見ていない。上がってきた報告書を見てそれを伝えただけなので実際どの時点で転んだのかは知らない。”と言った後、実際に自分でビデオを観て確認してくれたそうです。

実際に見たあとそのマネージャーがTmに言ったことは、”This is totally driver's fault(これは完全に運転手が悪いね)"と言って謝ってくれたそうです。

結局、マネージャーが受け取った報告書はほとんどでたらめで、Yuは走行中に転んだのではなく、Yuや他の子供が座席に座る前にバスが出発し、その為に転んで怪我をした。というYuが説明したことこそが真実だったわけです。

事実を捻じ曲げて報告した奴にはコンニャロ!という気持ちですし、バスの運転手も信用ならんと感じますが、とりあえず真相がつかめたし、マネージャーも謝罪してくれたので良しとします。なにより、ここまで粘って電話をして真実を解き明かしたTmの粘り強さには頭が下がりました。Tkだったら、始めの電話で納得してしまっていたかもしれません。アレで納得してしまったらYuが教えてくれたことを信用していないことになってしまいますし、真実を知らないままになってしまったことでしょう。

子供に関わることで、真実を知ることが難しいことを実感させられますが、粘り強く何度もアプローチすることで最終的には本当に何が起きたのかが分かるということを学ばせてもらいました。あとは、証拠、この場合はドライブレコーダーとしてのビデオが残っていたのが幸いでしたが、何かあったときのための備えはしておいたほうがいいかもしれません。

日本では学校が信用ならないことがニュースになっていますが、別に日本に限らないことで、親がどれだけ粘るか、証拠を集めるかがカギとなるのかもしれません。

なんにしても、TmがGood Jobでした。