月に響く笛
もうすっかり昔の話のように感じますが、数年前に耐震偽装が明るみになった時期がありましたね。新聞やテレビでしか事件をしりませんでしたが、最近になって、「月に響く笛」という本を読んでいます。建築士のさとちゃんから借りた本なんですが、あの時期、あの短い期間にどんなことが行われていて、国交省の官僚やヒューザーやそれを支援した政治家、そして著者のイーホームズの間でどういうやり取りがあったのか、あの事件はどういうことだったのか本を読む進めていってようやく理解しつつあります。
ただの一般市民としては、何の知識もなく単語も、言葉の定義も分らないことだらけでしたが、自分が住む場所がどういう風に立てられるのか、どういう法律の上に成り立っているのか全く知らないことがどれだけ怖いことかよく分ります。その後の中国の震災で学校が軒並み全崩壊したことを考えれば、それだけ深刻なことかも分りますし。全崩壊した建物に自分の家族がいたらと思うと、ゾッとします。
アメリカの建物は、多分日本のものと比べると格段に耐震強度が低いと素人ながら感じます。柱の作り方、天井の張り方をパッと見ただけでも、日本に住んでいたことがある身としては、もし地震があったら多分ぺしゃんこになるんじゃないかと思いますし、それ以上に古い建物が多いのも事実です。たぶん建築の知識がある人がアメリカの建物を見たら、驚くことが多いと思います。こういう建物を建てて何十年もすみ続けることができるのは、地震が少ない大陸だからなんでしょう。
月に響く笛では、焦点は方の抜け道を作った国土交通省、その偽装がどうやって行われたか。お互いが責任を逃れようとしてスケープゴートを作って、結果としてそれがイーホームズにされてしまったこと。責任を回避するために政治家をつかって圧力をかけて、官僚は自分のキャリアが傷つかないような対象を選んで、責任をかぶせていったことなどが書かれています。
こういうことは、当時のニュースを追っていても知りえなかった情報で、マスコミが流していたニュースはかなり強いバイアスがかかった情報ばかりだったこと、本当に重要な問題提起はされず、誰か特定の個人の責任に押し付けられて、システム自体に問題がなかったのかという問題には注目されないように仕向けられていたようです。
こういった意図的な問題のすり替えはどの時代にも、どの事件にもあることのように思います。ニュースになるような事件だけでなく、日常の生活の中でもよく目にしたり、時には自分自身で引き起こしうる現象かもしれません。
今起こっている問題を引き起こしている真の問題はなにで、改善するためにはどこに注目しなくてはならないのか、そして注目すべき観点を堅持するためにはどういう言葉を選んで相手を説得したり、行動すべきかということを考えていないと、いざ深刻な問題が起こったときにはただ巻き込まれてしまうだけで、後から考えるともっといい方法があったのにと後悔することになりかねません。
まだ読み途中ですが、世の中にはボーっとして生きているいつの間にか騙されたり、不利な状況にされたりすることが日常的に転がっているんだという、なんだか当たり前なんだけどいつもは考えないようなことを思い知らされます。
著者の藤田さんは、当初文藝春秋を通して出版しようと考えていたようですが、本の記述内容に圧力がかかって断念したそうです。そして始めは自費出版したのが、この本。
- 作者: 藤田東吾
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