日本式礼儀のアメリカ的解釈

 最近Aikiwebという合気道ウェブサイトを覗いて、面白いブログがのっていました。東海岸にある有名な合気道道場で内弟子をしている人が、その道場のetiquette、エチケットについて自分のブログに書いてあります。
 この人のブログによると、その道場には1-9のルールがあるらしく、それが列挙されています。aikiwebではその内容についてあれこれとディスカッションされています。
 日本ではあまり内弟子が自分の道場の暗黙の了解的なことをブログで喧伝することはありませんし、そんなことは日常生活の中に刷り込まれているか、失敗しながら学んでいくものだと思います。あえて外部に宣伝する必要もないし、だから何?となってしまいますが、日本以外の国では、日本式礼儀は言葉にして列挙する必要があるのかもしれません。どうやらこの道場には結構厳格な"掟"があるようで、それを守らないといけないように見受けられます。あえて言葉にするとちょっと窮屈な気がするのは、その背景にあるものが説明されていないからなんでしょうね。この人の書き方もちょっと解釈が違うところも見受けられます。

私の意訳も入っていますが、概要は以下

1.お辞儀をすること。道場に入るとき、出るときには必ず礼をする、また畳に入るとき、出るときにもお辞儀をする。

2. 道場に入るときは道場上座のそばにあるドアから出入りすること。誰が稽古の最中に出て行くのか、先生が監視することができる。ビギナーは時に出入りすべきドアを間違えて使うが、そういう場合は古株がキチンと教えること。怪我をしてやむを得ず出る場合はその限りではない。

3. もう一つのよく破られる規則として、水を飲むときには必ず先生に許可をもらうことがあげられる。よく先生に許可を得ることなく水を勝手に飲む人がいるが、具合がよくないとき以外には、一旦稽古が始まったら畳から出ないものである。それでも水がほしい場合は、先生に許可をもらうことが求められる。

4. もし稽古が始まる時間から遅れて入ってきた場合、稽古に参加する際には道場の端に座って待ち、先生が許可をくれるのを待たなくてはならない。

5. 常に、常に先生に対しては礼を尽くすこと。自分がシャイでも、師範が怖くても、礼を尽くすこと。先生はみていないようでも生徒がどういう態度をしているのかをちゃんと見ている。生徒が礼を尽くさない態度を取っていても、先生は始めは何も言わないだろうが、だからといってその事を憶えていないわけではない。きちんと生徒の態度を憶えているのである。これはビギナーがよく犯す間違いである。

6. もし自分の技を手直しされた場合、言われていることを真摯に聞くこと。自分が、先生の言ったことがおかしいと感じたり、不必要だと感じても聞く姿勢を忘れてはならない。

7. もしこの道場をビジターとして訪れている場合、道場生がする雑用を助けるべきである。彼らは大抵とても疲れていて、そしてお腹が空いている。もし道場にビジターとして来ている人が有級者であったら、その人は師範の袴をたたんだりすべきである。もちろんこれは義務でないが、こういうことをすることで周りの人に好印象を持たれるだろう。

8. 稽古相手にひどいことをしてはいけない。稽古中、早い動きをするのはかまわないが、初心者を打ちのめすようなことはしてはいけない。常にこの道場にはこういうことをする人が数人いるが、もしそういう状況を黒帯が見つけたら、全ての有段者が入れ替わりでその人に同じ目にあわせるだろう。

9. この道場にビジターとして来ている人は、道場を去るときに、先生に贈り物をプレゼントするべきであるし、稽古時間のインターバル時には、敬意や尊敬の念を伝えるために師範の元に足を運ぶべきである。

原文はこちらTonya's Training Diary » Blog Archive » New York Aikikai Etiquette

 太字で書いてあるところは、違和感を覚えたところです。こうやってルールにするようなことかどうか疑問を持ちます。
 色々意見はありますが、結構アメリカの合気道の道場では、和式の礼儀をキチンと教えているところが多いように思いますし、道場に入るとき、出るときのお辞儀や、挨拶も日本と変わらないか、時にはそれ以上にしっかりしているように思います。多分これは合気道を広めたパイオニアの先生方がしっかりしていたからなんだと思います。始めはそれでいいかもしれませんが、こういう"掟"は伝言ゲームみたいなもので、教える人が第2、第3世代になるとどんどん歪んでいくもののような気がします。世代が変わると、最後には形だけ残って、中身がなくなっていってしまうかも知れないと、ふと思った記事でした。

 Aikiwebで話題になっているのは8項目の内容で、そのまま解釈すれば、この道場には常に2,3人の、初心者を痛めつけるのが大好きな人がいて、そういう人は黒帯に同じように痛めつけられると取ることができるけど、そういう道場ってどうなの?という内容でした。 まあ、色んな風に取ることができます。もうちょっと書き方もあっただろうに。"New York Aikikai Etiquette" - AikiWeb Aikido Forums
 この人の話をまともに受ければ、この道場にビジターとして稽古に参加すると、お腹空いて疲労困憊している内弟子の雑用を代わりにして、その後道場を去るときには饅頭の詰め合わせかかにかを先生にプレゼントをしなくてはならないってことになります。日本の礼儀とかしきたりって言うのは、言葉にして列挙するとなんか変な習慣だと思ってしまうのが不思議です。shouldをすべきである、とそのまま訳したために強めな表現になっている気がするのも否めませんが、特にビジターの項目まで定めている点は、違和感を抱かざるを得ません。礼儀作法って言うのはそういうものじゃない気がします。
 礼儀作法はある程度は教えられて獲得していくものだと思いますが、礼を尽くされる側が、尽くす側に対して、あなたは私にこうすべきであると言葉にしてしまうと、なんだか厚かましい態度に感じてしまいます。
 こういうのは日本文化の難しい点で、ルール化したり、マニュアル化したりすればそつなくこなすことができて、やりやすいのだけれど、気持ちという中身がないルールを押し付けられると、ただ厚かましいだけの"掟"や"しきたり"になってしまいます。礼を尽くすようなふりをして心の中で逆のことを思うことだって有得ますから。結局信頼関係が構築されて、初めて生きてくる文化なんだと思います。