寄付と研究費

最近、iPS細胞を作った山中さんの研究所が寄付の広告を出していて話題になりました。

www.cira.kyoto-u.ac.jp

 

内容は、研究の重要性にもかかわらず、研究所で働く科学者の9割以上が非正規で、いつ資金が尽きるかわからないから寄付をお願いします、という訴え。山中さんはiPS細胞を作ったことでノーベル賞を受賞し、京大に専用の研究所を作って、尚且つ潤沢な研究資金が取れているのですが、膨大な数に増えた研究所の所員を雇い続けるためには、資金が足りなくなる可能性もあります。しかも、競争的資金は数年ごとに公募で獲得する資金ですから、競争に敗れて獲得できない年があれば、その年は雇用を切らなくてはならなくなります。

 

これは日本の殆どの研究所や大学で同じことが言えて、今や教授かそれに相応する職にありつけた“上がった”人たち以外はほとんどが非正規雇用です。実際名だたる国立研究所では9割とはいかないけれど、やはり相当の人が非正規だし、5年契約で雇用が完全に終わるケースや、1年おきの更新なんて普通に聞く話です。

 

こういう傾向は、2000年くらいから始まったことなのですが、当時、助手(今の助教)で入った人が昇進できなくても定年まで同じポジションにい続ける人が結構いて、万年助手と呼ばれていました。彼らがずっと助手のポジションにいることで(もちろんい続けるしか選択肢がなかったからなんだけど)それによって若手の登用ができないことや、人材の循環が止まることが問題になったのだと記憶しています。

 

 その後、新しく雇われた若手研究者のポジションは順次5年任期になっていきました。今や准教授のポジションにいる人でも、終身雇用でないケースがあるようです。ポスドク1万人計画に始まった研究者人口の一次的な増加によって、雇用を何とかしなくてはならなかったのも一因かもしれません。その結果何が起こったかというと、教授以外(時には教授職でも)は有期雇用にすればいいという考え方が普通になって来ています。これは大学の運営側にとっては都合のいいシステムではありますし、運がよく実力もある研究者にとっては、ポンポンといいポジションを渡り歩いて教授に収まることができる可能性もあります。

 

 人材の循環を促すといういい面もあるのですが、いつまでたっても雇用が不安定な職種と化してしまった研究の世界からは、優秀な人が去って行っているように感じます。実際、学術界での研究職は雇用の不安定さの点から、あまり人にお勧めできない。

 

大学や研究所は研究費(雇用のための資金も含めて)を運営費交付金や競争的資金で賄っているのが現状ですから、これに寄付や、他の収入も含めて安定した運営をできるようにするという山中さんの研究所のやり方は、今後もっと広がっていってほしいと思います。ただ、他の大学だとips研究所ほどのお金は集まらないでしょうけど。

 

東北大の脳トレの研究者はかなりのお金を稼いで研究費として寄付をしたそうです。それくらいしか、日本のアカデミアで研究所の資金獲得の方法はない、というのが今の問題のように思います。